大判例

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東京地方裁判所 昭和26年(モ)3813号 判決

被申立人と申立人間の昭和二十五年(ヨ)第二〇六三号不動産競売手続停止仮処分申請事件につき、昭和二十五年六月二十六日当裁判所のなした仮処分決定はこれを取消す。

訴訟費用は被申立人の負担とする。

この判決は第一項につき仮りに執行することができる。

二、事  実

申立人訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、その理由として、

「申立人は被申立人所有の別紙目録<省略>記載の不動産につき、東京地方裁判所に抵当権実行による競売申立をなし、同裁判所昭和二十五年(ケ)第二五号事件として同年二月十七日競売開始決定を得て競売手続進行中のところ、被申立人の申請により昭和二十五年六月二十六日主文第一項掲記の競売手続停止の仮処分決定がなされた。

ところで当時右仮処分の本案訴訟は提起されていなかつたため、仮処分裁判所たる東京地方裁判所は申立人の申立により同年七月十二日附の決定で、右決定送達の日より十四日以内に本案訴訟を提起すべき旨命じ、該決定はその頃被申立人に送達された。そこで被申立人は同年八月三日申立人を被告として東京地方裁判所に不動産競売手続不許並びに登記抹消請求の本案訴訟(東京地方裁判所昭和二十五年(ワ)第四四八二号事件)を提起したところが、右の訴訟は弁護士細井次郎蔵が原告(被申立人)の訴訟代理人として提起したものであるが、訴訟行為をなすに必要な授権を証する委任状の提出がなかつたため右訴訟については昭和二十六年五月二十二日不適法として訴却下の判決がなされ、該判決は昭和二十六年六月九日確定した。よつて本件仮処分については前示起訴命令に定められた期間内に本案訴訟の提起がなかつたことに帰着するから、右仮処分は取消さるべきものである。

なお、被申立人から再び前示本案訴訟と同一の訴訟が提起されたことは認めるが、民事訴訟法第七百四十六条に明定する如く裁判所の命ずる期間内に本案訴訟の提起がないときは仮処分は取消さるべきものであつて、右の第二の本案訴訟が提起されたのは右期間経過後であるから、右訴訟の提起によつて仮処分の取消を免かれ得ないことは明かである。

仮りに然らずとするも、本件における被申立人の所為は申立人の申立による競売手続を遅延せしめるため訴権を濫用するものである。即ち、前掲の昭和二十五年(ワ)第四四八二号の本案訴訟は約一年にわたり繋属し、訴訟代理人細井弁護士は証拠の申出をしながら、それに必要な手続を怠り、最後には口頭弁論期日に出頭しなかつたので裁判所は弁論を終結したが、被申立人から細井弁護士に対する訴訟委任状の提出のないことが判つたので裁判所において被申立人代表者及び細井弁護士に対し数十回にわたり委任状提出方を催告したが遂にその提出がないため昭和二十五年五月二十二日訴却下の判決が言渡されたものである。然し、細井弁護士は本件仮処分申請事件、本件の仮処分取消申立事件、並びに昭和二十六年七月二十八日新たに提起した第二の本案訴訟においていずれも被申立人の代理人として訴訟委任状を提出し、訴訟行為をしているのであつて、何故に一年近くも繋属し、その間訴訟代理人として訴訟行為をした前記昭和二十五年(ワ)第四四八二号事件において委任状を補正し、訴訟を進行しなかつたか了解できないところで、本件競売手続を不当に遅延せしめんと企てているものという外ない。これは今回制定された訴訟手続促進に関する規則の趣旨にも反すること甚だしく断じて許容すべからざるものである。

従つて本件仮処分は右の本案訴訟の提起を顧慮することなく取消さるべきものである。」と述べた。<立証省略>

被申立人訴訟代理人は申立却下の判決を求め、答弁として、「申立人の主張する通り、申立人から被申立人所有の別紙目録記載の不動産に対する競売申立があり、競売手続進行中被申立人の申請により主文第一項掲記の仮処分決定があつたこと及び申立人主張の通りその申立に基き起訴命令があつてこれが被申立人に送達され、被申立人から本案訴訟を提起したがこれにつき申立人主張の如く訴却下の判決があつて該判決の確定したことはいずれもこれを認める。

然し被申立人はその後昭和二十六年七月二十八日更に同一内容の本案訴訟を提起しているのであつて、最初に提起した本案訴訟(東京地方裁判所昭和二十五年(ワ)第四四八二号事件)につき仮りに被申立人の主張する如き経過があつたとしても、これがために被申立人が訴権を喪失する理由はないから、申立人の本件申立の理由のないことは明かである。」と述べた。<立証省略>

三、理  由

申立人が被申立人所有の別紙目録記載の不動産につき東京地方裁判所に申立てた抵当権実行による競売手続中被申立人の申請により昭和二十五年六月二十六日主文第一項掲記の右手続停止の仮処分決定がなされたこと、申立人の申立により東京地方裁判所が昭和二十五年七月十二日附決定を以つて被申立人に対し、右仮処分につき本案訴訟を提起すべき旨命じ、右決定がその頃被申立人に送達されたこと、被申立人が同年八月三日申立人を被告として東京地方裁判所に本案訴訟として不動産競売手続不許並びに登記抹消請求の訴訟(同裁判所昭和二十五年(ワ)第四四八二号事件)を提起したが、右訴は訴訟代理人たる弁護士細井次郎蔵において訴訟行為をなすに必要な授権を証する書面の提出がないため不適法として却下され、右判決は昭和二十六年六月九日確定したことはいずれも当事者間に争ないところである。

そこで考えて見るに、本件の如く、起訴命令があつて提起された本案訴訟につき右のような理由で不適法として訴却下の判決があり、該判決が確定した場合には仮処分債務者から再度の起訴命令の申立をするの煩を経るを要せず民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十六条第二項に則り、仮処分の取消を求め得べきものと解するのが相当である。

然し本件においては更に被申立人から昭和二十六年七月二十八日前記訴訟と同一内容の本案訴訟が提起されていることは当事者間に争ないところであるから、前記理由で直ちに仮処分を取消すべきでなく更に右の訴訟提起に関し考察しなければならない。

そこで起訴命令所定の期間経過後本案訴訟の提起された場合仮処分を取消すべきかどうかが問題となるのであるが、仮処分に準用される民事訴訟法第七百四十六条第二項の規定に徴するに仮処分債務者は右期間の徒過によつて当然に仮処分の取消を求め得べきものとすることが右規定の本来の趣旨であることは明かである。然し、取消訴訟の口頭弁論終結迄の間に本案訴訟が提起された場合には訴訟経済の見地から取消を認めず仮処分を維持すべきものと解するのが相当であると考えられる。たゞ右の如く解するのは訴訟経済の考慮に基くものである以上、これがため、当事者の一方に対し不当に不利益を帰することのできないのは明かである。

そこでかような観点から、本件について更に考察を進める。

証人牧田彌太郎、同細井次郎蔵の各証言を綜合すると前述の昭和二十五年八月三日提起された第一の本案訴訟については幾度かの口頭弁論期日を経ながら結局前示の如く訴訟委任状の提出のない理由で訴却下の判決があつたが、これに関連する本件の仮処分申請事件(昭和二十五年(ヨ)第二〇六三号事件)及び第二の本案訴訟(昭和二十六年(ワ)第三五六六号事件)はいずれも細井弁護士が被申立人の訴訟代理人として訴訟委任状を提出して訴訟行為をしていることが疏明され、本件仮処分取消申立事件(昭和二十六年(モ)第三八一三号事件)においても又同様に細井弁護士が訴訟委任状を提出の上訴訟行為をしていることは当裁判所に明かなところである。

かような関係にあつて、前示の訴却下となつた本案訴訟と同一内容の本案訴訟が提起されたとしても、訴訟経済という考慮から、これによつて民事訴訟法第七百四十六条第二項による取消を免かれ得るものと解することは申立人の利益を不当に害することとなるものといわなければならない。

このことは例えば本件仮処分の保証金の点について考えて見ても、仮処分発令に際し保証の額を決定するにあたつて当然考慮されるところの仮処分により競売手続の停止される期間を予想するには訴訟の通常の進行が想定されているのであるから、被申立人側に存する懈怠のため訴が却下され(第一の本案訴訟提起の時から第二の本案訴訟が提起される迄に約一年が経過している)通常の訴訟の進行は著しく破られている本件において第二の本案訴訟の提起があつたことを理由に仮処分がそのまま維持されるならば申立人は不当に不利益を甘受せしめられる結果となることは明白であろう。

従つて本件においては訴訟経済ということにより事を決するのは適当でないから、第二の本案訴訟の提起を以つて仮処分取消を免かれる効力を有するものと見ることはできず前示の如く、第一の本案訴訟につきなされた訴却下の判決の確定によつて、起訴命令所定の期間内に本案訴訟の提起がなかつたことに帰したものと解し、民事訴訟法第七百五十六条、第七百四十六条第二項に則り仮処分決定を取消すべきものとする。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条仮執行の宣言につき、同法第百九十六条の各規定を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 安岡満彦)

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